Vol. 03 · MMXXVI Akira Machimura · 町村 彰 machworks.dev
Journal · Music & Words
Article Folio 44

ドイツ詩をうまく歌うための練習方法

韻律 → 朗読 → レガートの3段練習に乗せる。

✍︎ Hand-written

α 忙しい人のための結論

以下の3種の練習を10回ずつやって、めっちゃうまくなろう。うまくなったことを確かめよう。
忙しかったら、最初の4行だけをやりこんでその変化を実感してみるとかもいいと思う。

韻律を強調して読む
文法を強調して朗読する
楽器を鳴らし続けてリズム読み

これらをやりこんだら、少しずつ曲の音に近づけていこう。

朗誦〜Deklamieren〜

曲の音と一致するまで近づけたら、これであなたもドイツ語マスター!!!!!

A 「ドイツ詩をうまく歌う」とは?

すごく端的にいうと、「リズミカルに、意味わかってる感じで、レガートに」歌えると、とても素敵です。

今回歌う”Wein und Liebe”, “Schlachtlied”は、ドイツ詩の中でも韻文というジャンルです。

  1. 韻文は散文と違い、行ごとに一定のリズムで言葉が編まれているので、そのリズムを認識して読むと、聞いてて気持ちよくなります。
  2. また、もちろんドイツ語なので、文法のリズム(主語、動詞、目的語など)もあります。そのリズムを認識して読むと、言葉として伝わりやすくなります。
  3. さらに、澱みなくレガートで歌えると、声も育っていい音色が保てます。お客さんの集中を惹きつけ、魅了することができます。

今回は、上記の3点を、全て達成した演奏を「上手い」と定義し、それができるようになる練習を紹介します。
詩 -> (宮澤が作ってくれた言語資料
曲の楽譜 -> Wein und Liebe(imslp)

B ゴールイメージ

歌うときには何も考えたくない

実際に舞台に立って歌う時に考えることは、基本的に少なければ少ないほどいいです。
体準備して息吸って声出すこと(楽器の操作)にリソースを割ければ割けるほど、素敵な音を鳴らせます。
なので、詩を読む練習の目的は、上記の「詩のリズム、文法のリズム、レガート」を、意識しなくてもできるように体に刻み込むことです。

ある程度反復して練習して、脳と体をクセづけましょう。
あと大事なこととして、脳・体へのクセづけ方として、ちゃんと本番と条件を揃えると効率がいいです。
今回紹介する練習をするときは、なるべく「全力で歌う時と同じ体・息で」行うのがおすすめです。
ちゃんと息を吸って吐いた時に -> こういう読み方をする、という癖をつけていきたいですからね。

C やること

ここでは、詩のリズム / 文法のリズム / レガートに対応する部分練習を紹介します。
とにかく、部分練習をやりこんで脳と体にクセをつけるが目的なので、何回も繰り返し行うのがおすすめです。
下記の、韻律読み - 朗読 - 本気リズム読み を各10回とかやると、多分勝手にうまくなっています。

では、それぞれの練習方法を解説します。

STEP 0. beforeを録音しとこう

……と、練習する前に、曲を歌って(通しじゃなくても、短いセクションでもいいと思う)、録音しておきましょう。
体感としても効果を実感できるかもしれませんが、念の為ね。

STEP 1. 韻律読み 〜skandieren〜

こういうやつです。

Wein und Liebe(韻律読み)

この読み方は、韻文が書かれる規則「韻律(meter)」に立脚しているので、それを説明します。

韻文を構成する要素

ドイツ詩(英詩も同様ですが)の行は、2音節か3音節の詩脚(foot)がいくつか集まってできています。
詩脚は、[弱強][強弱][弱弱強][強弱弱]などいくつかのパターンがあり、ベーシックな詩は、同じパターンが一定の個数集まって、詩行を作っています。

Wein und Liebeを見てみると、一行目は……

Liebchen und der Saft der Reben
となっています。

最初の単語”Liebchen”のアクセントは”Lieb”の部分にありますね。 ということは、最初は[強弱]のパターンです。
そのパターンに基づいて行全体を読んでみましょう。

[Liebchen] [und der] [Saft der] [Reben]
[ 強 弱  ] [ 強   弱 ][ 強  弱 ] [ 強 弱 ]

いい感じで、名詞(Saft)とかアクセントの音節(Re)に「強」が来ますね。
“und”を強く読むのは抵抗があるかもしれませんが、一旦この練習の時は強く読んでみましょう。極端にやるのがコツです。
[強弱]のパターンの詩脚が4つ集まってできているこのような詩行を強弱四歩格といいます。
英語で言うと、Trochaic tetrameterです(強弱格はTrocheeという名前で呼びます)。別に何語で呼んでもいいんですが、僕は英語で呼ぶことが多いです。かっこいいからね。

2行目に行ってみましょう。

[Teilen] [meines] [Herzens] [Glut]
[ 強 弱] [ 強 弱] [ 強 弱 ] [強 - ]

あれ……強拍で終わってしまいましたね。
韻文にはこういうパターンがあります。こういう、1音節省略される行の終わり方を「男性終止」と呼びます。
逆に、1行目のようにフルセットで終わる終わり方を「女性終止」と言います。
行を続けて読んでみると、女性終止(1行目)の方はスムーズに次の行にいけるのに対して、男性終止(2行目)では一拍開けたくなると思います。
こういうギミックを駆使して、詩人はリズムに変化をつけているわけですね。

これで、Wein und Liebeをリズミカルに読む材料は揃いました。
まずはゆっくり、確認しながら強弱をつけて読んでみましょう。
慣れてきたらちょっとずつ速くしていって、ノリ良く読んで、体に刻みつけていきましょう。何回も言いますが、極端にやるのがコツです

読みながら、たとえば「1行目と3行目、2行目と4行目の最後の音節が同じだな?(脚韻)」とか、いろんな面白ポイントを見つけていくと楽しいですね。

Exercise

Schlachtliedについても、同様の分析をしてみましょう。

  • 詩脚のパターンは?
  • 1行は何歩でできている?
  • 例外っぽい行はある?

詩脚のパターンとか、wikipediaに結構簡潔にまとまってるので、参考にどうぞ。

韻律 - Wikipedia

STEP 2. 朗読〜sprechen〜

こういうやつです。

Wein und Liebe(朗読)

このステップでは、意味が伝わりやすい読み方を訓練していきます。 文法から生まれる単語の凸凹とクレッシェンドを、体に刻みつけようという話です。

文法役割を表す読み方とは

これはとても重要なことなのですが、ドイツ語には文法があります。
英語の会話とかで経験がある人もいるかもしれませんが、子音と母音を正しい発音で発音しても、文法関係が曖昧な読み方だと何言ってるかわからん感じになります。
たとえば次のような英語の文を、人に伝えるつもりで読んでみてください。

She gave me a chocolate.
この文をちゃんと人に伝えるように読んだ場合、平坦にはならないはずです。 普通のテンションで読む限り、たとえば”She”と”gave”がどっちも強くなることはあんまりないと思います。 そして、ナチュラルに読む場合、なんとなくgaveを少し強く読んで、chocolateに向かってクレッシェンドしていくような読み方になると思います。 その強弱とかスピード感を変化させる感じが、「文法役割(主語・動詞・目的語など)を表す読み方」です。

このノリの基本は、ドイツ語でも共通しています。上の文をドイツ語で表してみましょう。

Sie gibt mir eine Schokolade.

完全に語順も同じなので、なんとなく意味わかると思います。(gibtは現在形ですが、ドイツ語はちょっと前の話は現在形で表す習慣があります)
英語と同じノリで読んでみましょう。
やっぱり、強い単語と弱い単語ができて、凸凹やクレッシェンドが発生すると思います。
歌詞の各文の文法を理解し、それによって生まれる凸凹やクレッシェンドを強調して読み、体に刻み込むのがここでの練習です。

Wein und Liebeを見てみよう

では、Wein und Liebeの一文目を見てみましょう。

Liebchen und der Saft der Reben teilen meines Herzens Glut.

恋人と葡萄の汁が、私の心の炎を分かち合う。

この文の主語は「恋人と葡萄の汁」ですね。ドイツ語で言うと”Liebchen und der Saft”の部分です。
この部分をもう一段階細かくみると、
“Liebchen(恋人)” と “und der Saft der Reben(葡萄の汁)“に分かれます。
Liebchenは一単語なのでいいんですけど、“und der Saft der Reben”はまだ少し要素が多いですね。分けていきましょう

  • “und” -> “and”
  • “der Saft” -> 汁
  • “der Reben” -> 葡萄の(属格)

です。
属格というのは(〜の)の格ですね。(derが格を標示しています)
すなわち、ここでは”Reben(葡萄)“が”Saft(汁)“を修飾している、いわゆる後置修飾の形になっています。
英語の感覚に寄せるなら、“Juice of grapes”みたいな感じだと近いですね。
ここだけで読む練習してみましょうね。

ここまでが主語で、次の”teilen(分かち合う)“が動詞ですね。“Teil(部分)“が動詞化して”teilen(分ける)“です。

その次の名詞句が目的語ですね。

  • “meines Herzens” -> 私の心の(属格)
  • “Glut” -> 炎を(対格)

対格は(〜を)の格です。ここでは無冠詞ですね(少し古風な使われ方ですが、英語に慣れてるとこっちの方がわかりやすいよね)。
meines Herzens -> Glut という風にかかってるわけですね。

さて、構造がわかったところで、もう一度読んでみましょう。

[Liebchen und der Saft der Reben] [teilen] [meines Herzens Glut].

S                 V     O

一番大きい分け方はこのSVOで、さらに細かい分け方ができるよね、というのをここまでで確認してきました。
それぞれの分け方の層に従って凸凹やクレッシェンドが生まれるのを、可能な限り拾って、極端に読んでいきましょう。
ゆっくり、極端に、慣れてきたら少しずつ速く何回も繰り返すと、少しずつ体に沁みてきます。

定動詞後置と分離動詞について

ドイツ語の重要な文法事項、というか英語と大きく違うところである定動詞後置 / 分離動詞について、少し書いておきます。

ここまでは主文(SVO)の語順を見てきましたが、ドイツ語にはもう一段おもしろい癖があります。
まず、さっきの”teilen”がそうだったように、主文では定動詞(活用した動詞)は基本的に2番目に来ます。ここでいう「2番目」は「2つ目のかたまり」のことで、“Liebchen und der Saft der Reben”でひとかたまり、その次の”teilen”が定動詞、という数え方ですね。
ところが、“wenn(〜のとき)“のような従属節をつくる接続詞(ほかに”dass”や”weil”などの仲間がいます)が頭につくと、定動詞は節のいちばん最後まで飛んでいきます。これが定動詞後置です。意味の核になる動詞が最後まで出てこない、歌い手泣かせの構造ですね。

Wein und Liebeだと、ここがわかりやすいです。

Auch mein Liebchen strahlt verklärter, wenn ich voll des Nektars bin.

僕の恋人も、いっそう晴れやかに輝く。僕がそのネクター(神酒)に酔いしれているときには。

前半の主文”Auch mein Liebchen strahlt verklärter”では、定動詞”strahlt(輝く)“がちゃんと2番目(“Auch mein Liebchen”のかたまりの次)にいますね。
でも後半、“wenn”で始まった瞬間に、定動詞”bin(英語のam)“が節のいちばん最後まで送られています。

[Auch mein Liebchen strahlt verklärter] , [wenn ich voll des Nektars bin]

 主文:strahlt が2番目          従属節:bin が文末

英語なら”when I am full of the nectar”のように、“am”は文の真ん中にいますよね。この「動詞がなかなか出てこない」感じが、定動詞後置です。

朗読のコツの話をすると、定動詞後置の節は、いちばん大事な動詞が文末に来るまで意味が完成しません。
なので、“wenn ich voll des Nektars …”の間はちょっと宙吊りにしておいて、最後の”bin”に向かって気を持っていくように読みます。
STEP 2でやった、目的語(chocolateやGlut)に向かってクレッシェンドしていく感じと同じノリで、今度は文末の動詞に向かってクレッシェンドするイメージですね。途中で気が抜けて最後の”bin”を弱く流してしまうともったいないので、最後まで気を持たせておきましょう。

そしてもう一つ、これと似た現象が分離動詞です。“aufwecken(目覚めさせる)“のような動詞は、前綴り”auf”が切り離されて、これまた文末に飛んでいきます。詩の最後の行がまさにそれですね。

Amor weckt mich wieder auf.

アモル(愛の神)が、僕をまた目覚めさせる。

定動詞”weckt”は2番目にいますが、動詞の意味を決める前綴り”auf”が文のいちばん最後に置かれています。“weckt … auf”が左右から文を挟み込むこの形を「枠構造Satzklammer)」と呼びます。
朗読でのコツは定動詞後置と同じで、“auf”が来てはじめて”aufwecken”の意味が閉じるので、「もう終わったし」と弱く流さず、最後のひと押しとして置いてあげましょう。

要するにドイツ語は、動詞の決定的な部分(定動詞や前綴り)が文末に来ることがよくあります。SVOのクレッシェンドに加えて、文末の動詞・前綴りまで気を抜かずに持っていく感覚を体に入れて、もちろん極端にやると、ぐっとドイツ語らしい朗読になりますよ。

Exercise

  • 宮澤が作ってくれた資料を使って、文法の分析をしてみよう
    • 疲れたら、任意のAIに詩とこのページのURLを投げて「文法役割の分析をして」っていうと多分いい感じにやってくれます。
    • もちろん練習とかで解説もするつもりです
  • 文法に従って、極端に読んでみよう。10回、だんだん極端さを増していくとより良いと思います。

STEP 3. 楽器を鳴らし続ける 〜本気リズム読み〜

こういうやつです。

同じ音でリズム読み

「リズム読み」という練習方法をやったことがある人は多いと思います。
今回提案するのは、その本気バージョンというか、本番の歌唱から、音程の変化だけを抜いた歌い方です。
音は最初の音でもいいし、最高音でもいいし、ちょっと厳しかったら低い音でもいいですが、ちゃんと息を吸って、歌う声で、ずっと同じ音でリズム読みをします。

この練習でつけたい脳と体の癖は「発語がどうあっても、楽器の操作は休まず行うこと」です。
普段、僕らは口先や舌だけでしゃべっているわけではなく、喉の上下や共鳴の形をいじったり、喉頭の中を細かくいじったりして音素を作っています。すなわち、楽器の形を変形させて言葉を作っているわけです。
声を楽器として使って、レガートで歌いたいときって、要するに「楽器の形をあまり変えずに出力を出し続けたい」ということなので、その習慣はかなりブレーキになります。
ここで紹介する本気リズム読みをやると、楽器を鳴らす練習ができるのと同時に、自分がどこで楽器を歪めたがるのかに詳しくなれ、曲を歌う時にレガートが崩れるポイントを早めに察知することができるようになります。 お得ですね。

この練習で意識するのは、以下です。

  • 声を収めたり、抜いたりせず、ずっと楽器を鳴らし続ける
  • 実際の音価よりちょっと長いかなーくらいを狙って、はみ出しながら歌う
  • 声の変化に気を払う

これらを意識しながら、同じ音で曲を歌いましょう。 「続けよう」と思って力押しになりすぎると、それはそれで本番の声と違ってくるので、気をつけましょうね。
いろんな繋げ方を試してみる、という発想だと割と安全かもしれないです。

Exercise

  • まずは1行から、だんだん範囲を広げてやっていきましょう

D 仕上げ -> 曲にしていく

ここまでの練習をやりこんできたあなたは、きっと韻律のリズムと、言語のリズムと、歌う声が全て共存した読み方ができていることでしょう。
最後に、ここまで組み上げてきたものを維持したまま、曲が要求する音程や、強弱などを達成していきましょう。 最後に紹介するのは、Deklamierenという練習法です。朗誦って言ったりもしますね。

こんなやつです。

朗誦〜Deklamieren〜

楽器を保って読む作業を、少しずつ楽譜の音に近づけます。
上の音源はかなり朗読に近いですが、だんだん音程を広げていって、曲が求める音程に一致させていきます。
根気強くSTEP1-3のクセを捨てずに曲に一致させていくと、音取り -> 読みという順番でやった時とはずいぶん違う演奏になっているはずです。
やっていくと、あーこの進行喋りやすいわー、とか、ここやりにくいわーみたいなところが出てくると思うんですが、そこが曲のミソだったりするので、その違和感を大切にしていきましょう。

ここまできたら、afterの録音を録って、beforeと比べてみるのもいいと思います。
beforeみたいに歌おうとして、うわ嫌だー、って思えたらそれは一つのゴールですね。

E まとめ

ずいぶん長くなってしまいましたが、こんな流れで言葉から曲に繋げていくと、詩の難しいところと曲の難しいところも分離されますし、どういうふうに演奏するかの迷いがずいぶん消えるかなーと思っています。

  • 韻律を学習する -> ひたすら読む
  • 文法を学習する -> ひたすら読む
  • 楽器を鳴らし続ける

をした上で

  • 少しずつ曲の情報を入れていく

というプロセスですね。

……バーっと描きましたが、文字だけでわかった!となることもなかなかないと思いますので、ぜひ練習でもゆっくりやってみましょう。

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Comments

感想・コメント

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